訴訟になる可能性もあり 介護の誤嚥事例から対処法を学ぶ

介護現場におけて特に警戒されているトラブルの1つが、誤嚥による事故です。誤嚥は肺炎や窒息を引き起こし、死亡事故につながる重大なトラブルです。

誤嚥事故が起きてしまうと、事業所に対する信頼は当然大きく下がってしまいます。しかも、訴訟を起こされたら事故発生の経緯について厳しく責任を問われることになります。

この記事では、実際に訴訟となったケースを紹介します。裁判になった際、何が争点となるのかを知ることは、誤嚥事故を防止する対策にも役立ちます。

重大事故を防ぐために、実際に起こってしまった重大事故を参考に見てみましょう。

 1章 誤嚥の恐ろしさ

誤嚥とは、食べ物が気管内に入ってしまうことをいいます。のど元の筋肉が衰えた高齢者や、のどの筋肉が発達していない子どもに多く見られます。

食べ物が気管に入ってしまった場合、通常はせき込むなどの嘔吐反応によって気管から出すことができます。しかし、嘔吐反応が低下している人はそれができません。食べ物などに含まれた細菌が気管から肺に入ってしまい、肺炎を引き起こすこともあります。

最悪の場合、死亡するケースもありますので、免疫力や体力が落ちている高齢者にとっては深刻な事態を招くこともあるのです。

そのため、高齢者を介護している人にとって、誤嚥防止は特に注意を払うべきポイントです。

 2章 介護事業者は、民事、刑事、行政訴訟の当事者になる

介護事業とは、人の命を預かっている事業ともいえます。そのため、医療と並んで訴訟リスクが高く、実際に介護過誤訴訟は徐々に増えています。

つまり、すべての介護事業者は民事、刑事、行政訴訟の当事者になり得るということなのです。

ここでは、介護施設が当事者となった民事訴訟をみることによって介護サービス提供者の義務の範囲を明確にします。

 3章 施設側の過失認定事例

介護利用者に起きる事故(転倒、転落、誤飲、誤嚥など)はインシデント、アクシデントともに高齢者介護という特性から起きるべくして起きてしまいます。

当然、施設側も対策をとっていますが、裁判においてなにがどのように認定されるのか、賠償責任が問われるのはどのような場合か実際の判例から読み解いてみましょう。

誤嚥について、施設側の過失の有無が問われた事案のなかから、介護保険法施行後の事件を紹介します。

東京地裁平成19年5月28日 判例時報1991号81頁

【事件の概要】

社会法人が設置運営する特別養護老人ホームに平成7年4月ごろ入所したAさん(死亡当時98歳)が、平成13年8月26日自ら選択した昼食の玉子丼を摂取後容態が急変し、心肺停止状態で搬送先の病院に入院。

その後、2回の転院の後、老衰および虚血性脳症の影響により死亡した。

Aさんの子供のうち2名が、平成13年8月26日の容態急変は、昼食の玉子丼かまぼこ片を誤嚥して窒息状態に陥ったからと債務不履行、不法行為責任にもとづく損害賠償請求をおこなった。

【争点】

① 容態急変は、誤嚥によるものか

② ホーム側の過失、誤嚥監視義務違反の有無

③ 今回の出来事を相当な金額に算定すること

【判決】

① 容態急変は、昼食時に発生していること、1回目の急変時に施設側が吸引処置をしていること、2回目の急変時にかまぼこ片をはきだしていること、3回目の急変時に心臓マッサージをおこなったこと、のどの奥からかまぼこ片一つを取り出したこと、さらに、病院の主治医が搬送時の症状に付いて、窒息と診断したことから、容態の急変は、玉子丼を食べた際かまぼこ片を誤嚥し、気道が一部閉塞されたことにより生じた窒息が原因であると認定した。

② ホームの施設に医療設備が無く、介護職員らに医師免許や介護資格がなかったこと、医療技術がなかったこと、誤嚥をうたがった際、介護職員が応急処置をしたとしても気道内の異物が完全に除去されたかを判断することが困難であったこと、介護職員らは、引き続き経過を観察し、容態急変時には、嘱託医に連絡をして適切な処置を施すよう求めたり、救急車の出動を要請すべき義務を負うと認定した(ホーム側の職員の過失及び経過観察義務違反認定)。

③ 今回の事件に関することを金額に換算すると400万相当

【まとめ】

・判例では、配慮義務懈怠責任よりも不法行為の認定がポイントとなります。

・施設側の過失が認定されると損害賠償請求が認められる可能性があります。

・過失認定では、予見義務違反と結果回避義務違反の有無が争点となります。

・誤嚥事故発生までの経緯、事故発生後の対応の過失有無が判決を大きく左右します。

このように、裁判では死亡原因が誤飲なのか、施設は誤嚥を防ぐための監視義務を果たしていたのか、誤嚥が発生した際に適切な処置を施していたのか、など多面的に検証されることになります。

本件の場合、施設に医療行為を行える人間がいなかったことで、誤嚥対応への判断を誤ったと認定されています。当たり前ですが、「処置をしたから過失はない」ということにはなりません。処置が適切でなければ、その責任を問われます。

このように、誤嚥という高齢者に起こりやすい事故が、事業所に多大な損失をもたらすことがあります。

 4章 誤嚥を起こさないために

誤嚥事故を起こさないためには、組織全体で取り組むことが必須です。誤嚥防止のためには、重層的なコミュニケーションが大切となります。

職員同士、職員と入居者、職員と入居者の家族、職員と施設に常駐する医師など、1人1人の入居者の状態を把握しましょう。

特に入居者の家族との連絡は重要になります。というのも、家族は入居者に会いに来る際、手土産などを持ってくることが多いですよね。そのとき、入居者の好物だから、という理由で、誤嚥を引き起こしやすい食べ物を持ってくることがあります(下記参照)。

入居者の普段の食事の様子を家族に報告し、食べない方がよいものがあればしっかり伝達しましょう。

【誤嚥を引き起こしやすい食べ物】

  • お餅など弾力性のあるもの
  • 酸味のあるもの
  • 汁物、飲み物
  • 水分が少ないもの(鶏のササミなど)
  • 細かくかみ砕くのが難しいもの(おせんべいなど)

 5章 最後に

介護施設におけるトラブルは、一歩間違えると死亡事故につながる事象も多くあります。そのため、厚生労働省は平成14年4月に「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」という対応指針を出しています。

(出典:厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0422-2.html

そもそも、事業所は事故を起こさないことを前提にすべきですが、万が一事故が起きてしまったとき、とるべき対応を把握していることも重要になります。

訴訟リスクに備える為にも、いつなにがどのような状況で起こったのかを記録し、事故が起きた際の対応を徹底しましょう。

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